パミール高原が全く高度を失うあたりは、ソグディアナ(西トルキスタン)であり、かつてのチムールの都サマルカンドである。サマルカンドは北のタシュケント、西のブハラとともに乾燥地帯の多い中央アジアにあって、豊富な水流に恵まれ、緑の色濃い都で、四六時中小鳥のさえずりに包まれ、壮麗な回教寺院は円塔を碧空にそばだて、どこからか銅鑼の音が静かに響いてくる。ふりそそぐ小鳥のさえずりにまじり、近くのバザールは喧騒と混雑でごったがえしている。ソグディアナ人、ウズベク人、イラン、トルコ、コタール、モンゴル等あらゆる種族の人間の展覧会である。大道芸人も多種多様である。はじめに現れたソグデ ィアナのメロディーを押しつぶすのはウズベクの民族楽で主奏楽器は唐のチャルメラに似た笛。アルペンホルンとそっくりのラッパはモンゴリア、リズムをきざむ手太鼓はタタール。それが幾組にも分かれ、負けず劣らずはやしたてるバザールの午後である。やがてその喧騒の彼方からホルンが奏するキャラバンの主題が聞こえてくる。パミールを越えてきたあの一隊である。土俗楽と主題が入り乱れ、難所を越え緑地に辿り着いた悦びを迎える人々の交歓を描く。